橋下ワクチン開発 室

ワクチン1.5「首相公選制を考える橋下徹」

1 ツイートの概要

ここでは2011年6月15日の橋下ツイッターを検討する。この日のツイートは投稿の時間帯で1〜10までと11〜26の2つにわかれる(参考資料)。

前半はインドネシアの通貨危機とIMF介入後の経済構造改革、成長の話から始まり、破綻した企業や事業への「役所」の施策のまずさを指摘し、関西電力の15%節電要請を批判する。

1〜5までは財政再建の話で、「政治の力強さ」の必要性を説く。6からはいささか唐突に関西電力批判を始める。この批判にはうなづけるところもあるが、特異なことも言っていない。

後半は二元代表制、首相(首長)公選制ないし大統領制についてがテーマになっている。

しかし、まともに読んでいくと何が何やら全く分からない。因果関係のないことや単純に比較できない事例を行ったり来たりしながら話を進めるので、違和感を覚えながらも何となく筋が通っているように思えてしまう。彼のこういったセンスには脱帽させられる。

2 今回の「読み解く視点」

今回の場合、個々のツイートを読み解いてその矛盾を明らかにしていくより、ツイート全体の意図をさぐる方がよいと思う。彼のツイートは複雑に入り組んでいるので、難しいことを言っているように見えてしまう。しかし、実際のところは「外してはいけないポイント」を意識しながら、あとは根拠の怪しいことを思うまま縦横無尽に口走っていると見た方がよいと思う。

3 制度の問題にして目をそらさせる

今回のツイートのテーマの核は次の部分だと考えると全体の構図が見えてくる。

首相公選制となり、長と議会とが同一政党ということになれば、それは今、大阪維新の会がやっている政治体制となる。チェックは野党とメディア、そして選挙で行う。僕は日本を立て直すには首相公選制しかないと思っている。ジャカルタにて政治の力強さを感じた。大阪維新の会は首相公選制の実験である(23)

橋下は強い政治力の必要性を説く。大阪維新の会は日本の国家レベルの政治改革を視野に入れた壮大なプロジェクトの試金石だというわけだ。

しかし、大切なのは制度ではなく政策の妥当性である。

橋下は「二元代表制とは、首長と議会がそれぞれ直接選挙で選ばれることを指すだけ」(14)であり、「首長と議会の多数派がひっつくことは二元代表制の瓦 解」(12)という批判は、「二元代表制という言葉に振り回されている」(13)結果だと主張する。橋下と大阪維新の会の独裁の批判は的外れだといいたいわけだ。

ツイート14のしつこい繰り返しは橋下自身この主張が屁理屈だという自覚があるためだろう。

「議会による首長のチェック機能」といわれる二元代表制の意義は、議論に幅を持たせ、政策の妥当性を高めていくところにあるはずだ。与党政党の首長であっても、与党議員内からは多様な意見を得られる。さらに、野党による質疑を受けて政策の妥当性を高めることができる。マスメディアによるチェックも同じ役割を果たすだろう。

ここで重要なのは、首長と与党が野党・マスメディアの意見に耳を傾け、政策の妥当性を高める努力を充分に行なうという前提だ。橋下の主張は表面的には正しく見えるが、橋下・大阪維新の会はこの前提を無視している。だから独裁という批判を受ける。

国政の混乱の原因を橋下は議院内閣制に求める。議院内閣制にも利点があれば欠点もあるだろう。しかし、大切なのは議論や批判を受けた上で妥当性のある政策を作りだす取り組みだ。その取り組みをおろそかにし、制度のあり方に固執する橋下は問題の本質から目をそらそうとしているに過ぎない。

橋下・大阪維新の会は常に改革案のぐだぐだっぷりを批判されてきた。そして、他党やメディアの意見をないがしろにし続けてきた。

結局、彼がやってきたのはその批判に府民の目が向かないようにするための話題作りだった。大阪維新の会を国政の混乱と対照的に位置づけて見せるのもその一つだ。橋下は府民に大きな夢や希望を見せる。そして、自分のやり方に様々な批判があっても「しばらく長い目で見るべきだ」という構図を作り上げて議論を封じる。

4 政治家が責任を負わずに済む体制作り?

ツイート21では相変わらず「民意の嘘」(痛み止め)を吐き、得体の知れない「国民の責任」という要素を刷り込もうとする。橋下はツイート4や5で「役所」が国民負担の施策をとりがちだと批判している。これにはうなずけないこともないのだが、一方で「選んだのは国民だから国民には負担する責任がある」と、政治家の責任を転嫁する体制を作ろうとしているようにも見える。

ツイート24では「首相が国民に訴えかけ、とてつもない責任を負う」と述べているが、ここで言う「責任」が何をさすのかよく分からない。これまでの橋下の発言を見ていると、せいぜい「次の選挙で落とされる」くらいの話だ。この人の「責任」という言葉の使い方にも注意した方がよさそうだ。

おまけ

全体の構図が見えたところで最後に個々のツイートで気になるところを確認しておこう。

我が日本国も、いっそのことIMFに介入してもらった方がいいかも。一回破産の手続きを踏むべきかも。(5)

「IMFに介入されるほど酷い状態なら、その前にダメもとで大阪維新の会に任せてみませんか」とでも言いたいのだろうか。

これは二元代表制という言葉に振り回されている。二元代表制とは、首長も議会も直接選挙で選ばれるということを指すだけ。議会が総がかりで首長と敵対することまでを想定しているわけではない。現に、全国の地方議会は、首長と議会がなれ合っている。多くの首長選挙は、全ての政党が首長を応援する。(13)

ならば、彼の主張する首相公選制の有効性も怪しいのではないか。

日本では一言目には、独裁を許すな!となるが、ねじれ国会になると、政治がリーダーシップを発揮しろ!となる。今の日本に必要なことは政治が力強さを持つ制度。(15)

リーダーシップとは反対意見や利害対立を調整してうまくまとめていけるような柔軟な態度のことではないのか。橋下の中ではリーダーシップとは独裁のことらしい。

よく橋下に「実行力がある」という評価があるが、それを実行力と呼べるかは怪しいものである。

首相公選制については、国会議員が色々理由を言って反対するが、これまでの首相の選び方については問答無用。何を言おうが、国会議員よりも国民が選ぶ方がましだ。(24)

「なんぼかまし」レベルの着想を力説されても困る。

首相候補者の激しく深い公開討論を見たくないですか?ここで候補者の全てが分かりますよ。(25)

「激しく浅い」討論の達人が言っても何の説得力もあるまい。

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解題(2019年3月3日)

 今読んでもよく書けている。相手の主張の認めるべきところは認めてあるところもすばらしい。

 実践2本目にして、分析視角をクリアにした上で読み解いていく形式を取っているところもいい。ツイート一つ一つを批判していくと、やたら文字数がかかるし、詰めが甘くなる部分が残って言い逃れの余地を与えてしまう。

 こうして読み解いてみると橋下の言っていることは結構バカみたいで、今読んでもらった方がむしろワクチンとしての意味を持つのかもしれない。




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