01/12
webマガジンfactree
日雇い労働者のつくりかた
第1回 服装について
■第1回目です
『日雇い労働者のつくりかた』というタイトルをなんとなくの語感と趣味で決めてしまってからいったい何を書けばいいのかまったくわからなくなってしまいました。なんか自分的にやな感じのまえがきを書いてしまったこともあって2ヶ月くらい悩んでいたのですがよくよく考えればタイトルのとおり日雇い労働の世界にどうやって入っていくのかを体験談をまじえつつ実際的に書いていけばいいようです。
■寄せ場に行く
というわけでまずは寄せ場について書きます。僕が日雇い労働者について知り考えるようになったのがそもそも寄せ場に行ってからだし、寄せ場を語らずして日雇い労働者は語れません(と思います)。
僕が釜ヶ崎という寄せ場を知ったのは3年前(2001年)のことでした。一度行けば分かるのですがまず驚きます。一言でいえば「日本じゃないみたい」です。この一言をもう少し解きほぐしてみると、つまり「日本にこんな場所があるなんて知らなかった」という驚きであり、「ここに根付いて暮らしている人が相当数いるのだ」という実態としての存在感がすさまじいということでした(註1)。
朝早く寄せ場に行くとセンターという巨大な建物を中心に求人の車が来ています(註2)。ここで手配士と呼ばれる人たちと交渉して仕事に連れていってもらいます。僕が初めて仕事に行ったのは昨年(2003年)の3月18日でした。
■必需品をそろえる
この前日(17日)に日雇いに行くための必需品と思われるものを買いに行きました。上着(300円)、ズボン(500円)、軍手(100円)、安全靴(1800円)、安全帯(3000円)といったものを買いました。釜ヶ崎には中古の作業着屋さんがあります。作業着(上着、ズボン)はそこで買いました。安全靴というのは靴の先に鉄板が入っているスニーカーです(ちなみに先の方に鉄板が入っている長靴は安全長靴です)。安全帯というのは高所作業をする時に落下防止に掛けるフックとひもがついているベルトです。
あらかじめ「これだけは要る」という品物を知り合いのところで聞いてから購入したのですが、安全靴と安全帯は「必需品」ではなさそうです。履くものは会社に貸してもらえます。また、もし買うなら安全靴より安全長靴の方がいいようです。せっかく安全靴履いていったのに安全靴じゃダメだといわれて結局安全長靴を借りるということが多いです。安全長靴は安全靴を兼ねます。日雇いは現場に行ってみないとどんな仕事か分かりません。だったら最初から安全長靴を買った方がいいです。
それから安全帯を使うようなことはほとんどありません(今までの経験上は)。あえて必要な場合は仕事に行く前に安全帯を会社から貸与されます。「自分の持ってるからいいです」と言って真新しい安全帯を出すのは恥ずかしくて僕はいつも安全帯を借りてしまいます。3000円も出して買ったのにです。誰か仕事行くなら売ってあげます(いらないって)。ヘルメットは毎回借ります。自分のを持っていっても派遣先の会社のヘルメットをかぶらなきゃいけない場合がほとんどだと思います。最後の砦は軍手ですが実際のところ軍手ももらえるみたいです。
「必需品」とか言いましたが結局のところ身一つで行っても大丈夫なのかもしれません。しかし服は汚れるので作業着くらい買ったほうがいいと思います。声もかけてもらいやすいでしょうし。
■安全靴はどのくらい安全か
鉄板入りの靴というのが面白くて意味もなく壁を蹴ったりしますと、靴の鉄板につま先をぶつけて痛いです。鉄板が入っているのは靴の先の上のほうだけなので釘とか太目のピンとかを踏むと簡単に貫通して痛いです。
作業着は大き目のゆったりしたものを選びましょう。ぴったりくらいのだと動きづらくてイライラします。長袖が原則です。夏場は長袖のTシャツかポロシャツを見つくろいましょう。
軍手は手のひらのところにゴムが塗ってあるやつがいいです。滑らないし丈夫なので洗えば何回か使えます。百円ショップで買うのはやめましょう。あれは滑ります。同じゴム手でもよくある黄色いイボイボのついたやつはやめましょう。園芸じゃないんだから。
しつこいようですが安全帯は買わなくていいです。僕は買って後悔しています。
■まとめ
こんだけそろえたらもう別にコスプレじゃないんだから仕事に行きましょう。というわけで次回は仕事に行く話です。
(註1)
ところで釜ヶ崎とか山谷とかといった名前をどのくらいの人が知っているのでしょうか。アンケートでもとって男女別、年齢別、学歴別、階層別とかに分類して把握してみたい気分です。どういう人がどういうふうに知っていてどう思っているのでしょうか。大阪府内で生まれ育ったある女の子は「女の子一人でいっちゃいけない」と親に言われていたそうです。僕の「22歳の時に初めて釜ヶ崎の名前と存在を知った」というのはどれくらいの一般性を持っているのでしょう。
(註2)
来てない時だってある。一年のうち仕事が多いのは2月、3月の年度末と8月のお盆前後。年度空けての4月にはばったり仕事がなくなる。4月〜6月は一年のうちもっとも苦しい時期。つまり寒い時と暑い時に仕事が多い。
はじめに
服装について
仕事に行く
身体の使い方
道具を応用する
飯場に行く
仕事の話
*Intermission*
土方になるとはどういうことか
どうしてできるようになるのか/前編
どうしてできるようになるのか/後編
怪我をするとはどういうことか
怪我をどう乗りきるか
役割を引き受けていくということ
おわりに