日雇い労働者のつくりかた

第5回 飯場に行く

アホかというくらい更新をしていませんでした。

「日雇い労働者のつくりかた」の更新を滞らせている間にも2度ほど<現金>に行ってきました。その時のことは「現金日記」としてみいらかんすの個人サイト、miirakansu:notesにまとめてあります。僕の日雇い労働シリーズの始まりは「飯場日記」です。この頃では飯場日記形式とでもいうような書き方を確立しようといろいろ実験をしています。「現金日記」はその実験の一つです。

自分の文体を作るとものが書きやすくなります。このやり方で書けば自分は何でも描けるんじゃないかと楽しくなります。「日雇い労働者のつくりかた」のための文体が作れたらもっと書きやすくなるのかもしれません。

■飯場とはなにか

みなさんは飯場という言葉にどれくらいリアリティを感じますか?

多くの人たちは飯場に入った経験なんてないでしょうし、飯場を目にすることもないでしょう。ところが、飯場は街中にあったりします。これは人夫出し飯場という飯場です(註1)。住宅街にプレハブが何棟も建っていて、そこで生活している人たちを見かけたことはありませんか?わりと普通のビル(あるいはマンション)でも、壁面の窓の間隔が異様に狭いことが気になったことはありませんか?

……ないですね。はい、まあそれと意識して見なければ案外気づかないものです。僕はうちの近所に二つ飯場があるのを知っています。一つは大学院の先輩に教えてもらいました(先輩のマンションの裏のビルが飯場でした)。もう一つは原付で適当に走り回っている時にプレハブが立ち並んでいるのを発見しました(註2)。

自分が飯場で働いたときは見知らぬ土地自体が物珍しくて強く意識しませんでしたが、普通に生活をしていて、自分の暮らす街に飯場があるのを発見すると驚きます。

■飯場にいく

一日仕事に行ってお金をもらって帰る<現金>に対し、飯場に入って一定期間働く場合を<契約>といいます。早朝の寄せ場に行くと<契約>を募集しています。

飯場の場所はさまざまです。「大阪府内」だとか「栗東」、「岸和田」、「四日市」など、求人プラカード(註3)に書いてあります。僕は地理に疎いのでそれがどこだかわからないことが多いです。そんなときは車のナンバープレートを参考にします。

風呂がきれいだとか、街中で遊ぶ場所もあるとか、手配師が飯場をアピールして誘ってきます。手配師と交渉し(あるいは捕まって?)、<契約>に行くことになったら車で飯場まで連れていかれます。施設はきれいか、近くに駅やコンビニはあるのか、仕事はちゃんとあるのか……いろいろ考えているともう車が永遠に到着しなければいいのにと思います(註4)。

■飯場につく

しかし哀しいことに永遠に走り続ける車などありません。幹線道路を走っていた車がウィンカーを出して路地に入っていくと、あーもう着いてしまうなあと思います。そうなると、どれだ、どれが飯場だと目玉をキョロキョロさせているとめちゃくちゃプレハブが見えてきてうげーと思ったり思わなかったりします。

まあ別にきれいだろうが汚かろうがよいのです。どうせ終の住処でもないし、終身の就職先でもありません。大切なのは仕事があるかどうかです。きれいで便利だが仕事がない飯場より、汚くて不便でも仕事がある飯場に僕は行きたい。

飯場に着くと契約書を書かされます。契約書には飯場内で金の貸し借りをするなとか、早寝早起きしろとか生徒手帳の文言のようなことが書かれています。飯場のあちこちにも注意事項が書かれた張り紙が目につきます。アホかと思います。

印鑑も拇印も捺さない契約書に効力あんのかなあと思いながら嘘の住所を書いたりするのですが、もし事故かなんかで死んだとき無縁仏になるのはいやだなあと思って本籍は正直に書いてしまうのが僕のダメな所です。意気地なし。

■飯場の生活

飯場に入った初日は休みになることが多いようです。仕事の有無に関わらず、食事と施設利用費として、大体3000円前後の飯代を取られます。もちろん初日からとられます。しかし、早起きして寄せ場に行って、長時間車に揺られたあとだと、もう今日は休みでいいよと思います。他の人が仕事に出払った飯場はとても静かです。

昼食は弁当、朝食と夕食は共同食堂でとります。飯場のごはんは押し並べて不味いです。カレーは辛くありません。

部屋は2畳〜3畳の個室で、テレビとウィンドウクーラーくらいのものは付いています。ただしウィンドウクーラーはコインシューターが付いていて、100円玉を入れないと動きません。共同の洗濯機が数台ありますが、やはりその都度お金が要ります。毎日100円玉が要るので何かを買っておつりが出たら100円玉をストックしておかなければなりません。

風呂はぬるいです。

恐ろしいことにトイレが汲み取り式だったりします。

飯場の事務所では「諸式」といって、軍手やカッパなど、仕事に必要なものを購入できます。しかし、大概は市価より高めです。市価60円程度の半ゴム手が200円だった時はびびりました(註5)。

■飯場の仕事

朝起きると食堂にあるホワイトボードを見に行きます。派遣先の会社の名前が縦にずらっと並んでいます。その横に自分の名前の札があったら、そこがその日の現場です。ホワイトボードのすみっこには「待機」という枠があって、その枠の中に名前があったらもうがっくりです。仕事があろうとなかろうと早起きしてホワイトボードを見に来なきゃなりません。もうちょっと考えて欲しいものです。

飯場の仕事はまあ、<現金>の場合と変わりません。ただし、一日働いたらそれで終わりの<現金>と違い、仕事が続くなら同じ現場に行かされるのが普通です。そうなると同じ現場に行く仲間ができたり、雇用主と仲良くなったりします(註6)。

雇用主に気に入られると優先的に仕事に呼んでもらえます。仕事に呼んでもらえるということは仕事が続くということです。雇用主とは仲良くするにこしたことはありません。

長く飯場にいると現場での責任者のようなポジションになることがあります。これは日雇い仕事の経験年数や年齢に関係なく起こります。自分よりよっぽど仕事ができるおじさんたちに指示をしなければならなかった時には顔が引きつりました。

■そういえば仕事の話をしてない

書いていてそう言えば日雇いの仕事にはどんなものがあるのかをほとんど書いていないことに気づきました。「飯場の仕事は<現金>の場合と変わりません」といわれても困りますよね。

飯場についてもっと書いておきたいことがある気がするのですが、とりあえず次回は一度ちゃんと仕事の話を書いておこうと思います。

註1
もう一つは現場飯場といって、これは交通の便の悪い山奥の建設現場に併設される飯場です。人夫出し飯場と違って、工事が終わったら解体される仮設の飯場です。

註2
僕自身、飯場に入るまではこのようなプレハブ飯場があっても見過ごしていたかもしれません。知っているから目に入るということもあって、何かになるということは風景の見え方が変わるということの一つの事例だと言えます。

註3
求人の車には労働条件が書かれた札がかけられています。

註4
僕は移動中の乗り物が好きです。移動中はのんびりしてていい人生の憩いの時間だと思っています。

註5
いくらなんでも二組で200円くらいだと思っていました。ちなみに「半ゴム手」とは普通の軍手の手の平側(半分)にゴムが貼付けてあるものです。他にも、350ミリリットルの発泡酒が200円、ビールが300円というぼったくりな値段です。同じ自販機でもタバコは市価と同じなのは不思議です。

註6
もちろん仲良くなりたくない人もいますし、仲良くなれない人もいます。人間関係って面倒くさいですね。